魚との出会い

 
 いろいろな生き物に興味を持ち、捕虫網を持って蝶を追っかけたり、近所のドブ(昔はあちこちにありました)をさらって、どんな虫がいるのか見てみたり(家族には嫌がられましたが)、縁の下や家の裏側とか、人が足を踏み入れないところに入り込み、釘で怪我をしたりしながら、蜘蛛やカマドウマやコオロギなどを良くつかまえていました。

 やがて陸上生物だけでなく、池や川の生物にも興味を持ち、沼地に出かけてヤゴやモエビをつかまえてりしていました。

 小学校高学年のころ初めて父親と一緒に多摩川に出かけて、短い竹竿で釣りをしたのは良い思い出です。ちょっとした堰の下のよどみに赤虫をつけて仕掛けを放り込むと、浮きがもぞもぞ動いて引き込まれます。

 しかし釣れない。父親も一生懸命手伝ってくれるが釣れない。記憶にある限り、初めての獲物は体長5cmぐらいのクチボソでした。針が大きすぎて釣れなかったのだと思います。

 このときの写真が今でも残っていますが(およそ50年近い前の1960年代です)、なんとよそ行きの恰好をして、およそ釣りとは無縁です。たぶん家族で多摩川の川縁に遊びに来て、お昼を食べ、そのついでに釣りというパターンだったのだと思います。

 釣れた魚は持ち帰りたい、と主張したことを覚えていますが、電車で来ていたため却下。もちろん家にも水槽などと言うものはありませんでした。

 その後今度は近所の友達と自転車で家から数km離れた池へ行くようになりました。この池はフナやヘラブナ、コイなどがいて、大人達が長い竿に練り餌をつけ、これまたこれ見よがしのヘラブナ専用の長い浮きをつけて釣りをしていました。

 私は友人達と先ずは家の近くの地面の中にいたミミズを数匹つかまえ、それを餌としました。普通の延べ竿に丸い玉浮きをつけ、大人達の邪魔にならないように池の隅っこの方で釣りを始めました。

 しかし釣れない。まあ場所が悪かったのでしょう。大人達の柔らかいしなかやかなへら竿が次々としなるのを横目で見ながら、半分諦め状態だったそのとき、忘れもしない一瞬がやってきました。

 数cmにちぎったミミズを餌にして、入れっぱなしにしていた仕掛けの玉浮きが数回チョンチョンと突っつかれかと思うと、そのまま浮きが真横にす〜っと引かれていきます。

 遂に来たか、と私の竿を立てた瞬間、竿がまさに折れんばかりに曲がり、体ごと池の中に持って行かれそうになるほどの衝撃が来ました。

 これにはびっくり。一瞬どうしたらよいのか分からないまま、魚とのやりとりが始まりました。沖に逃げそうになるのを、必死に竿を立ててこらえ、横に動くときはそのまま体も横に移動し、というのを繰り返していると、騒ぎを聞きつけた大人達が集まってきて、一挙に注目を浴びることになりました。

 何分ぐらいやりとりをしていのか今となっては定かではありませんが、たぶん10分ぐらいだったと思います。たぶん糸も太かったのでしょう。遂に仕掛けが切れることもなく魚が水面に顔を出しました。

 なんと体長50cmはあろうかという鯉でした。取り巻いていた大人の一人がタモを差し出してくれ、遂に捕獲。カメラがあれば当然撮影ですが、小学生ですからそんなものは持っていません。

 ただタモに入って横たえられた丸々と太った鯉の姿が目に焼き付きました。魚とのやりとり、釣り上げたときの達成感と開放感。これにしびれました。以後釣りにのめり込むきっかけになったことは間違いありません。

 ちなみにこのあと魚は再び放流。周りの大人達から「がんばったね」という褒め言葉をいただきました。
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