コオロギの飼育

 
 小学生のころ住んでいた家の近くには、東京都内でありながらまだまだ草むらが残っていました。秋になるとこの草むらの中から、やたらたくさんの虫が現れました。

 その中でも、コオロギは捕まえやすい昆虫で、ちょっとした茂みや枯れ草の下から山ほどコオロギが出てきます。それらのコオロギをあるとき大量に捕まえました。

 瓶に入れた大量のコオロギを、土を3分の1ほど入れた水槽の中に入れ、生活の様子を観察しました。キューリやナスといった餌を与え、鳴き声を楽しんだことを覚えています。

 しかしやがて季節が徐々に冬に近づき、大量にとってきたはずのコオロギが、いつのまにか減っていきました。その頃になると、こちらも飼育に飽きが来て、餌も満足にあげていなかったかもしれません。

 そして遂にあるとき、水槽の中に1匹のコオロギもいなくなりました。「あ〜あ、いなくなっちゃった。死んじゃったなあ」というのがそのときの感想です。

 でどうしたかというと、庭の片隅に水槽は置きっぱなしの状態です。小学生ですから、虫がいなくなり、見るものがなくなればすぐに水槽の事なんか忘れてしまいます。

 寒い冬が過ぎ、春がやってきました。もうすでにおわかりになった方もいると思いますが、なんと死に絶えたはずのコオロギが復活します。

 正確には、コオロギは産卵を終えて死に絶えたわけで、その後水槽をほっぽらかしにしていたのが、かえって良かったのかもしれません。

 ある時、ふと水槽を見ると小さな小さなコオロギ君達がいっぱい水槽の中を動き回っていました。「え〜、どうしてこんな小さい奴がいっぱいいるんだ〜?」と考えてから、「そうか、卵を産んでいたんだ」ということにようやく気づきました。

 虫の生態というものを実感した瞬間です。それまでも図鑑や読み物で虫の知識はそれなりに蓄えていましたが、やはり実物を見ることは一生記憶に残ります。

 これ以後、今度はアゲハの幼虫をつかまえてきて孵化させたりしました。幼虫の角がものすごい臭いを発するというのも、このころ実感しました。

 やはり知識というものは、体験の裏付けなくしては、本当の意味で自分のものにならないようです。
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